2024.06.03更新
「過ぎ去り、消えゆくものを忘れずに見つめ続けていくことに意味を見出す」
ガラス作家
石橋 和法
「暮らしに彩りを」をテーマにした、吹きガラスの器をつくっている石橋和法さん。作品にはつるりとした透明感のあるものもあれば、すりガラスのように仕上げられたもの、粒状の模様がちりばめられたものなどがあり、同じつくりての作品というと、少し意外に思う人もいるかもしれない。しかしながら、手におさまりのよさそうな柔らかなラインとやさしい風合いは、どの作品にも共通しており、それがとても印象に残る。そんな多彩な器を手がけている石橋さんに、作品への想いや今後の展望を聞いてみた。
おもにどんな作品をつくっていますか?
石橋 和法さん(以下、石橋):日常の食卓にはもちろん、特別なシーンでも映える「つかっていただきやすいガラス器」です。作品にはいくつかのシリーズがあり、メインで展開しているのは、すりガラスのようなマットな質感の『砂器(すなうつわ)』や、金属を用いて幻想的な雰囲気を表現した『煌石(こうせき)ガラス』、高級感のある落ち着いた風合いの『artifact(アーティファクト)』です。ガラスの透明感や泡を活かした『MONO』もありますよ。僕自身が飽き性なこともあって、展開している作品は本当に多様ですね。
ガラス作家を志した経緯を教えてください。
石橋:ものづくりはもともと好きだったんです。中学・高校は工業系の学校へ通い、工業製品に関する勉強を中心に学びました。けれども僕は、お客さまの顔が見えない製品づくりの一部を担うことや、近い将来主流になるであろう、ボタンひとつで管理するコンピューター技術による製品づくりには、魅力を感じなかったんですよね。そこで注目したのがガラス工芸で、きっかけは「幼いころに体験したこともあるし、面白そうだしやってみようかな」という、シンプルなものでした。
ガラス工芸の知識や技術はどのように習得されたのですか?
石橋:大学卒業後に専門学校『東京ガラス工芸研究所』で学びました。さまざまな技法を教わったなかで吹きガラスを選んだのは、ガラスの変化を都度見ながら、手や体を動かしてつくりあげる技法が自分に合っていたからです。その後、吹きガラス技術をさらに磨き、構想も深めたいと『瀬戸市新世紀工芸館』の研修生になり、研修活動と作品製作に取り組みました。現在は埼玉を拠点に活動しています。親が転勤族だったこともあって、いろいろな地に移ることには慣れており、またそれぞれの地で得た経験が、現在の活動の大きな土台にもなっています。
こだわりは、全ての器に個性がある「どこかをずらす」作品づくり
作品づくりは、どのような素材や工程でおこなうのでしょうか?
石橋:ガラスはおもにソーダガラスを使用しており、作品によっては色ガラスと合わせると特殊な発色をする銀や、細かくちぎった薄い銅箔なども用いています。金属はガラスとも相性がよく、多くの作家さんがポピュラーに使われている素材ですが、僕の取り入れ方は少し特殊だったりもします。
作品制作時にはまず、つくる器の種類と用途を決めます。たとえば「家で梅酒をロックで飲むのにちょうどいい、このくらいのサイズの器があったらいいな」といった具合に。そのイメージをデッサンにおこして、実際に試作したら、まずは自分で使ってみます。そこで「もう少し小さいほうがよさそう」「ちょっと持ちにくいかもしれない」などと、気づくこともありますので、それらを調整しながら試作を重ねて完成させます。
僕の手はあまり大きくないのですが、つくるものは基本的に、自分の手に合う、自分が使いやすいと感じるものです。また、お客さまたちから聞いた意見を反映したり、サイズ指定のオーダーを受けることもあります。それらをシリーズ化して展開することもありますよ。
作品をつくるときのこだわりや、石橋さんの作品ならではの個性はどういった点ですか?
石橋:「どこかをずらすこと」です。たとえば、砂器だと色をわざとまだらにしたり、下のほうをわざとぐにゃ~と歪ませて仕上げたり。同じ作品でも色の入れ方やかたちなど、全く同じにはつくりません。また、シリーズによって表面の処理なども変えており、肌触りも同じようで少しだけ違う…そういった細かいところにも変化をつけながら、一つひとつの器に個性が出るよう仕上げています。全てサイズ・形がミリ単位で同じで、平均的な手のサイズに合わせてつくられる器なら、工業製品におまかせすればよいと思いますから。
おすすめは小鉢。ぜひお気に入りの器を日々の食卓やギフトに。
特におすすめしたいお気に入りの器はどれですか?
石橋:特に人気があって個人的にも推しているのは小鉢です。食卓に並べたときに、アクセントとして映え、また合わせやすいことも魅力だと思っています。『砂器』『煌石ガラス』『artifact』など、各シリーズで、味わいの異なる器を展開していますので、お好みで選んでいただけるとうれしいです。そのほかに、一輪挿しも季節を問わず安定して人気がありますね。
石橋さんの作品はどちらで見たり購入したりできますか?
石橋:現在関東のいくつかの店舗に作品を置いていただいています。また、年に1~2回ほど、クラフトフェアなどのイベントに出店することもあります。僕の器は同じものでも一つひとつ色合いやかたち、手触りが異なるので、やはり実物を見て手に取っていただけるとうれしいですね。店舗やイベントに足を運べない方には、公式サイトをはじめとするインターネット販売もご利用いただけます。
今のところ、ご自身の作品はどのような層にうけがよいと感じていますか?
石橋:作品にもよりますが、お客さまは20代後半~30代の方が中心で、女性が圧倒的に多いなという印象です。作品づくりを始めた当初は、男性に好まれるのかなと思っていたので、少し意外でしたね。ご自宅用はもちろん、ギフトとしてもご利用いただいています。そのほかに「全部同じじゃないところがいい」と、気に入ってつかってくださっている飲食店もあります。特に日本食や創作系の料理と相性がよいようですね。
砂器シリーズは、和の風情を感じられるということで、外国人の方にお土産として購入いただくこともあります。フランスで毎年開催されている、日本の文化・芸術を発信するお祭りイベント『Art Shopping Paris 2024』に『鏡餅』の出品も決まっているので、こちらでの反応も楽しみですね。
つくりてさんや、料理、花とのコラボも広げていきたい
公式サイトにある「風村」はどういった活動ですか?
石橋:作家としての個性を活かした作品づくりも大切にしたいですが、どうしても単価が高くなるという弱点もあります。ですから、作家仲間さんたちと共同で、価格をおさえたプロダクトをつくることも面白いかなと考えているんです。もちろん、個々のコンセプトはくずさずに。それに、食卓はガラスの器だけでは成立しないと思うので、多ジャンルの作家作品の委託販売もできれば、選ぶ方も食卓を自由にコーディネートできて楽しいですよね。そういったことを発信する場として少しづつ始動させているのが「風村(かぜむら)」です。将来的には、たくさんの作家さんたちと一緒に活動を盛りあげて、そのなかのひとりとして僕も活躍できたらと思っています。
今後の展望をお聞かせください。
石橋:お客さまが実際の作品を見て手に取ることができる場を、もっと増やしていきたいですね。またそれとは逆に、店舗やイベントに足を運べない方でも気軽に作品を見て購入できる、インターネットツールのよさも実感しています。まずはその両方をきちんと整えて、ゆくゆくは「ここに来れば僕の作品が揃っている」といえる、工房を備えた拠点ももちたいですね。
最後に、本記事の読者にメッセージをお願いします。
石橋:ガラス工芸の一番の魅力は、やはりその多様性です。形や素材、質感によっていろいろな表情があって、シーンや用途に応じて使い分けられる、それがガラスの器ならではのよさだと思います。ぜひ愛着のわく器を見つけて、料理や飲み物を味わう時間を、より楽しいゆとりのひとときにしていただけるとうれしいです。
また、ジャンルを超えた作品づくりもどんどんしていきたいと思っていますので、作家さんはもちろん、ガラス器とのコラボに興味をもってくださる料理や花の仕事をされている方も、ぜひ声をかけてください。
作品紹介
プロフィール
ガラス作家
つくりて詳細へ
石橋 和法Kazunori Ishibashi
ガラスの多様性に興味を持ち作家の道へ、現在は埼玉を拠点に制作活動を行っています。 『暮らしに彩を』を合言葉に器や花器などを主に製作し、『砂器』『MONO』『artifact』『煌石ガラス』などのシリーズを展開しています。
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