2024.04.09更新

「職人と作家の間を攻めたい」使いやすさにこだわりつつ、自分らしさを加えるうつわ作りへの思い

陶芸家 松尾 亮佑

クリーム調の白い釉薬をベースに、口元には金属の装飾がほどこされた京焼のうつわ。そこにあるだけで、周りの空気がやわらぐような優しさがある。 そんな作品を作るのは、陶芸作家の松尾亮佑さん。以前は公務員だった松尾さんは、ある陶芸作家に直談判したのをきっかけに、二足のわらじで陶芸の道を歩み始めた。作家になって4年目という松尾さんに、現在の作風が生まれた経緯や、これから挑戦したいことなどをうかがった。

「師匠との関係は“ビジネス師弟”のようだった」

作品の製作を始めた経緯を教えてください。

松尾亮佑さん(以下、松尾):大学生のころから、陶器だけでなくガラスなどの工芸品を集めたり、見に行ったりするのが好きだったんです。そして大学院生になって、自分でも作品を作りたいなと思うようになりました。 製作をするようになったのは、個展をされていたある陶芸作家さんを訪ねて、「仕事を手伝うので教えていただけませんか?」と直談判したのが始まりですね。 その陶芸作家さんは、京都にある禎山窯という窯元に所属していた女性作家さんで、2年ほどその方に陶芸を教わったんです。 また、それと並行して、禎山窯の1階が陶芸教室になっていたので、そこで陶芸の基礎を学びました。

陶芸の世界にまさに飛び込んだ、という感じのスタートですね。師匠の作家さんに教わって、今生きていると思うことはありますか?

松尾:世間がイメージするような師弟関係というよりかは、“ビジネス師弟”といった感じでしたよ(笑)。仕事を手伝う代わりに技術を教えてもらっていましたので。 師匠は、一から十まで教えるのではなく、うまくいかないことがあっても、「私が言ったことを自分で考えて、工夫しながらやりなさい」と言う方でした。イベント出展も、「初回は教えるけど、2回目からは私に頼らずに一人でやりなさい」と。そのおかげで、ずいぶん度胸がつきました(笑)。 もともと僕は行動力があるほうですが、特に失敗を恐れなくなったところはありますね。当時の教えや経験は、今の自分の核になっていると感じます。 また厳しくも優しい方で、僕の作陶の本気度が上がってきたのを感じていただいたときに、親身になって、どういうふうに進んでいけばいいのかをちゃんと考えてくださったんです。それはありがたかったですね。 技術うんぬんより、この業界での生き方を教わったことは本当によかったなと思っています。

「作風を模索するなかで、海外の陶芸家の作品が目にとまる」

作品の特徴を教えてください。

松尾:作品はクリーム調の釉薬をベースにしていて、うつわの口元に金属を流すというのが、僕の作風です。代表的な作品は、その金属が黒とか茶色に発色したうつわですね。 クリーム色の部分で優しさを、流れる金属で渋さを表現していて、優しさと渋さが調和したようなうつわを目指して製作しています。

うつわの縁に金属を流すのは独特の技法だと思いますが、何かヒントにされたものはありますか?

松尾:最初は口元に金属は流してなくて、クリーム色だけで仕上げたうつわだったんですよ。でも、「うーん、これってどこでも見るな」と思って(笑)。何か自分なりの工夫がほしいなと考えていたときに、当時陶芸を教わっていた方から「君は、いろんな作家のうつわをもっと見たほうがいい。好きな作家を作りなさい」って言われたんです。 それでいろんな作品を見るようになって、まず目にとまったのが、ルーシー・リーの作品でした。ルーシー・リーは、イギリスを拠点に活動した女性の陶芸家です。彼女の作品の中でも、うつわの口元にブロンズ釉などを流した作品にひかれたんです。 その後、気になって画像を保存していた他の作家の作品を見返してその技法を分類したり、自分なりのやり方でいろいろと試したりしながら、今の作風になっていった感じですね。

いろいろと試行錯誤されて現在の作風になったんですね。作品の製作で、今意識されていることはありますか?

松尾:僕の作風はひとことで言えば、モダン。気に入っている言葉を使うなら、「中庸(ちゅうよう)」です。 昔から自分の価値観として、何事もどっちかに寄るってのがあんまり好きじゃなくて(笑)。それで自分らしい作品を考えているときに、「和風とか洋風にとらわれないうつわがいいな」って思ったんです。なので、今もそこを意識して作品を作ってますね。

「大事にするのは、使いやすさ」

作品づくりで大事にしていることを教えてください。

松尾:うつわの見た目はもちろん重要ですが、僕は生活のうつわを作っているので、「使いやすさ」を大事にしています。お客さんは女性の方が多いから、家事のストレスを少しでも減らせるように薄くしたり、軽いうつわを作ったり。 それと自分がいろんな食器を使っていて、ヨーグルトやパスタソースなどが、底に残って取りにくいと感じることがあるんです。なのでそういう不快感を解消するために、うつわに返しをつけてスプーンですくいやすくするような工夫もしています。食器は使ってもらってなんぼだと思うので、使いやすさは特に大切にしているんです。

女性のお客様が多いんですね。お客様と実際に接する機会はありますか?

松尾:今のところ、出展は陶器市と百貨店がメインになっていて、基本的には自分が表に立ちますので、そこでお客さんと会って話すチャンスがあるんです。 作品は自分だけで考えるというよりかは、お客さんとコミュニケーションをとりながら作っている感じですね。お客さんの言葉を聞いて新作につなげたり、リピーターの方に使い心地をたずねて、作品のマイナーチェンジを繰り返したりしています。

お客様の言葉や反応で、最近うれしかったことはありますか?

松尾:特にうれしいなと思うのは、イベント出展をすると、リピーターの方がよく来てくださることです。うつわに料理を盛った写真を見せに来てくださることもありますね。また、インスタグラムに写真を投稿してくださったり、「こんな料理を入れると、松尾さんのうつわは映えるよ」と教えてくださったりするのも、ありがたいなと思います。 出展した際にまたご注文いただいたり、「こういうのがあれば、お客さんが喜んでくれるんじゃない?」と提案してくれたりすると、優しさや思いやりが感じられて、すごくうれしいですね。

「自分の内面を表現した作品も作りたい」

陶芸作家になって4年目とのことですが、ご自身のなかで理想の作家像はありますか?

松尾:僕は、職人と作家の「間(あいだ)」を目指しているんです。分かりにくいですよね(笑)。 職人は、基本的にはお客さんのオーダーをもとにたくさんの数を作って、それを販売するのをメインにしています。一方作家は一つ一つの作品に力を込める、アーティストですよね。お茶碗などでも、職人が時間をかけてられないようなすごい物を作って1万とか2万円で売っていくような。 僕は職人の技術を持ちつつ、自分なりの個性を出して、職人が面倒くさがってやらないようなことをやっていきたいなと思っています。でも値段帯はそこまで高くなくて、あくまで家庭で使ってもらえるようなデザインに仕上げたいなと。 逆にアーティスト(作家)に寄りすぎると見た目重視の作品になって、食器からは離れてしまう気がしていて。 なので、職人と作家の間を攻めたいなと考えているんです。

これから挑戦したいことがあれば、お聞かせください。

松尾:今の自分の作風は一番初めのものだと思っています。僕はもともと人の心理に関わる仕事をしていたんですが、陶芸の世界に入った今も、作風とかを考えるときは心理学の知識を使って考える習慣があって。 臨床心理学では人について考えるときに外面と内面に分けるんですが、今の作風で出せているのは、「優しそう」とか外面の結構いいイメージの部分かなと感じています。 なので今度は自分の内面をもっと出して、人に受け入れられるかどうかも考えずに、好きなものを作っていきたいなと。技法で言うと彫刻が好きなので、削ったりとか彫ったりとか、「おうとつ」があるものですね。そういうのを全面に出したような作品が作れたらいいなと思っています。 そういう作品は、手間も時間もかかって多くは作れないと思うので、今後の個展などで少しずつでも発表していきたいですね。

作品紹介

陶磁器
朝顔飯碗 ooze melt
5,620 円
陶磁器
プリンマグ
売り切れ
陶磁器
ねじり取手マグ ooze melt
5,620 円
陶磁器
ねじり取手マグ
4,740 円
陶磁器
小丼
6,500 円
陶磁器
フリーカップ
3,600 円
陶磁器
筆巻稜花皿 16cm
売り切れ

プロフィール

陶芸家

松尾 亮佑Ryosuke Matsuo

つくりて詳細へ

やさしくあたたかみのある普段使いの器を手掛けています。少し青みのあるクリーム調の白系釉薬をベースと した器の縁に、高温で流れる黒茶色の金属を筆巻しています。

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