2024.06.03更新
「作品は生きざま。だからこそ人にも自分にも正直に向き合いたい」
陶芸作家
山崎勝実
オートバイが好きでエンジニアとして自動車会社に勤めたのち、早期退職をして陶芸作家の道へ進んだ山崎勝実さん。穴窯の偶然性と必然性の両面に惹かれ、穴窯での作品づくりにのめり込む。 エンジニアとして培った論理的思考、人生で磨き上げた感性、人との付き合い方、想像力。そのすべてを結集し作品にぶつける。それはまさに作者の生きざまだ。生きざまを自分を嘘なく正直に表現するために、どのようにものづくりに向き合っているのかについて、お話を伺った。
お家が焼き物業とのことですが、もともと陶芸に興味があったのでしょうか?
山崎勝実さん(以下、山崎):いえ、ほとんど興味がなかったです(笑)オートバイが好きで、それしか見えていなくて。好きが高じて、自動車会社でオートバイを開発するエンジニアとして30年以上働いていました。ですが50歳半ば、エンジニアとしてどこかやりきったと思えた自分がいました。後進も育ってきたこともあって、そろそろ自分の第二の人生をスタートとしてもいいかな、陶芸をしてもいいかなという気になったんです。
そうなのですね!興味がもてなかった陶芸を始めることになった経緯を教えてください。
山崎:もともと山登りが好きで、日本100名山を制覇しようと思っていたんです。また山登りと並行しながら、山の近くにある日本全国の窯元をめぐる旅を、会社勤めの後半から始めました。早期退職をしてからもそれが加速して、気づいたら100名山も窯元も全制覇していたんですよ。
旅をする過程で陶芸への思いも芽生えてきたのだと思います。その間に陶芸作りも始め、しだいに本格的に陶芸をする準備が気持ちの面でも整っていき、さいたま市に「やまざ器」というお店をオープンしました。
全制覇、それはすごいですね!ご両親に陶芸作りを教えていただいたのでしょうか?
山崎:いえ、すべて独学です。エンジニアの血が騒ぐのでしょうか、陶芸も自分で研究したかったんだと思います。どういうアプローチをしたら一番成果が出るのか、結果がいいのか、そういったエンジニアで培った論理的思考と、これまでの人生で磨いてきた感性とがうまくかみ合ったんだと思います。
独学に驚きますが、感性はご両親の影響も受けておられるのかもしれませんね。
山崎:いつも両親のやっていることを見ていたので、知らず知らずのうちに影響を受けている部分はあると思います。それに加えて自動車会社での経験、山登りの経験、陶芸の経験、いろんな経験の中で、自分ならではのものの見方や感性を鍛えていったのだと思います。
「偶然と必然の領域。想像を超える発見がある」
山崎さんの作品は、穴窯で焚かれているとのことですが、穴窯の魅力について教えてください。
山崎:窯には電気窯やガス窯など、いろんな種類がありますが、穴窯の窯焚きが大好きなんです。滋賀にある穴窯で、赤松の薪を使って焚いています。赤松の良し悪しや自然の天候に左右され、高気圧だと良く燃え、低気圧だと燃えづらい。そういったこちらの手が届きようがない偶然の領域と、必然の領域、その両面に惹かれます。手が届かない領域には、想像力で補いながらイメージを膨らませていきますが、それが楽しいですし、実はチームワークも欠かせないんです。
チームワークが大切とはどういうことでしょうか。
山崎:電気窯やガス窯の焼成は1日で終わりますが、穴窯の場合は5日〜1週間焚き続けるので、仲間や窯焚きのパートナーが必要なんです。そのチームワークのレベルが上がれば上がるほどいいものができます。
窯内部の作品の配置場所や粘土の形成の仕方、技法など、自分の努力でよくなる必然の領域に、チームワークや自然の力など、これらがいいバランスではまったときに、やっといいものができます。想像通りのときもあれば、想像以上のときもある。毎回発見と感動があります。
とてもすてきです。偶然性と必然性を活かして生み出される山崎さんの作品からは土の素材感や力強さを感じます。どのようにしてその作風が生まれたのでしょうか。
山崎:信楽にいる師匠との運命的な出会いが大きかったです。窯元の旅の道中で、信楽の土地の雰囲気や土味に惹かれました。そこで師匠と出会って話していくうちに、師匠も元々エンジニアだったことがわかって。波長がぴったり合ったんですよ。そこから師匠のもとで学ぶようになりました。 その影響もあって、私のスタイルは志野という焼き物を穴窯で焼いていくのですが、薪の灰が高温で溶けることによって付着する自然釉を特徴としたもので、乾燥していく過程で発生する気泡やひび割れがいい味を出してくれます。このひび割れを梅花皮(かいらぎ)と言って、なかなか出すのが難しいですが、試行錯誤しながらやっています。 この手法を使った志野茶碗や、釉薬を使わないため表面がざらざらした味わい深い焼き締めのぐい呑みなど、土味を活かした作品を作っています。
「さまざまな登場人物との出会い」
土偶や縄文土器なども製作されていますよね。
山崎:はい。昔、上野美術館で展示されていた土器や土偶を見て感動したんです。縄文土器は1万年も前に作られていて、当たり前ですが誰も作っている様子を目にしたことがない。そのはるか昔に想いを馳せ、自分で想像しながら作りあげていくことに興奮します。
2023年8月に開催された「子ども土サミット」では、子どもたちが土について学びながら、土偶作りをするイベントが盛況だったようですね。
山崎:「土サミットFUKUOKA2023」という土の未来について考えるイベントのうちのひとつとして、「子ども土サミット」が福岡で開催されました。このイベントに参画するきっかけとなったのが、仙台にある企業の社長からの1本の電話でした。
その会社は土の再利用をはじめとして、未来に豊かな大地を残すための活動をされている企業で、土偶作りに興味をもってくれたんです。実際に土偶づくりを体験してもらうと、これはおもしろい!ということで、とんとん拍子でことが運んでいきました。
埼玉と福岡ですと距離があるので、大変なこともあったのではないでしょうか。
山崎:とてもエネルギーが必要でした。会場に窯を作る必要があったので、福岡に3回ほど足を運びましたが、自分1人ではできません。九州の企業の人に協力してもらい、zoomでこまめにコミュニケーションを取りながら進めました。
一方で、有難いことに私の周りにいろんな登場人物が現れるんです。
集客が得意な人、SNSが得意な人、周りを巻き込むのが得意な人、それぞれの得意が集結することによってできた、とてもエキサイティングな取組みでした。
イベントに参加された方々の反応はいかがでしたか?
山崎:応募人数を上回る40名の参加があり、お子さんやご両親で賑わいました。土偶作りの経験がゼロのなか、試行錯誤の連続でしたが、多くの楽しい作品が生まれ、みなさんの笑顔が印象的でした。実は既に今年も開催することが決まっています。 また九州で友達が出来たり、サミットに参加してくれたお母さんや子どもたちが、埼玉の陶芸教室まで通いに来てくれたり。一歩踏み出すとそれに伴って登場人物が増え、どんどん盛り上がっていく。いつもありがとうの気持ちでいっぱいです。
「作品は自分の生きざま」
山崎さんにとって、想像力がキーワードのように感じるのですが、どのようにイメージを膨らませて作品に落とし込んでいるのでしょうか?
山崎:想いはなかなか成就しないと思うんです。けれども、例えばこんな作品を作りたいとか、想いを常に引き出しに入れておきます。その引き出しには、想いのほかに、今までの自分の経験や見たもの感じたもの好きなものなど、いろんなジャンルのものが入っているんです。それらがうまく結びついて、ひとつに繋がる瞬間があります。言葉にするのは難しいですが。
山崎さんの「生きざま」そのもののような気がします。
山崎:はい、生きてきた証みたいなものですね。熱量や想いを込めて作っているので、おのずとそれらが作品ににじみでてくると思います。それを受け取ってもらえたら嬉しいですし、私も感動をもらっています。たとえうまくお客さまに届かなくても、想いを込めて作りきっているので、後はお客さまを信頼して委ねています。
すぐはたどり着かなくても、いつか誰かのもとに届くかもしれない。なのでできるだけ作品に対して正直に向き合い、自分はこんな人間なんだと、素直に自分を出していきたいです。
自分を出すということはときに難しいような気がしますが、山崎さんは人とのつながりにおいても、それを大事にされているように思います。
山崎:自分を隠さないで、正直に相手に向き合えば、相手もそれに応えてくれる。お互い真摯な付き合いができたら楽しいですし、その想いは昔から変わっていないです。
そのためには自分を整えることも大切だと思っています。運動や食事に気を遣い、体力をつけることで、メンタリティも満たされます。体力があるとちょっと弱気になっても、またもとに戻せるんです。そうすると自分とも真正面から向き合え、自分の中から湧き上がってくるものが作品に宿ります。もうそれは完全に無の状態です(笑)
とても奥が深いです。これからの山崎さんの挑戦に目が離せません。
山崎:挑戦はずっとし続けると思いますが、100歳陶芸家を目指しています。幸いに今とても健康でいることができていて、メンタリティも充実しています。
穴窯が相棒みたいなものなので、作品を作り続けたいです。
自分と向き合い、自己を高め、想像する。自分でも未知なものを作り続けていくので、最後にできたぞ!と言えたらかっこいいなと思っています。
作品紹介
プロフィール
陶芸作家
つくりて詳細へ
山崎勝実Katsumi Yamazaki
穴窯の窯焚きがとにかく大好きです。何日間も連続で薪を燃やすという過程も好きですが、それ以上に自然の力を頼りに、偶然と必然のドラマに魅力を感じるからです。想像力を最大限に駆使した感動のある作品作りを目指しています。作品は、はふり志野茶盌をはじめ、焼き締め器、日常使いのできるカップやお皿、また縄文ロマンあふれる土器や土偶などがあります。
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