2024.05.24更新

儚くて刹那的だからこそ、自然は美しい。

陶芸家 堀 順子

自然の美しさと儚さを表現された器を作り続ける、陶芸家・堀 順子さん。焼き物を通じて森や水、海など、自然から感じたエネルギーと感動を表現し続け、その作品は世界でも高く評価されている。生命の美しさと刹那を閉じこめた作品は、単純には語れない複雑な人間の心理や多面性が感じられ、見るものに深い感動を与える。今回は、自然を愛する陶芸家・堀 順子さんに、作品への思いや子ども時代のこと、今後の展望などについて、うかがった。

絵を描くよりも何かを立体的に作ることがすきだった。廃材にときめいた子ども時代

まずは、堀さんの子どもの頃の思い出を聞かせていただけますか。

堀 順子さん(以下、堀):物心ついた頃から何かを立体的に作っていくのが好きでした。絵を描くよりも何かを作る方が好き。家の近所の空き地に廃材が転がっているところがありまして、廃材を見ただけでときめいて、それを勝手に組み立てては何かを作っている。学校の授業とかは関係なく、そんなことをして遊んでいましたね。とにかく造形が好き。特に努力しなくても、美術の成績は良かったです。

その頃、どんなものを作っていたんですか?

堀:廃材で木片や小さなガラスなどを組み合わせて、オブジェのようなタワーを作ったりしていました。今思うと何だかよくわからないものを作っては、満足していましたね。

陶芸を始められたきっかけは?

堀:福井県で生まれ、親の転勤に合わせ茨城県、東京都、千葉県で育って、地元千葉県の高校に通っていました。高校に入って進路に迷っていた頃、東京に行く機会がありました。都内で美術館めぐりをしていた時に、美術大学の卒業展のようなものがありまして、そこにたまたま立ち寄ったんです。美大生が制作した作品のなかに、陶芸で作られたものを組み合わせてタワーのようにしている、ものすごく大きな作品があったんです。それを観た瞬間に「あっ、これだ!」って、直感的に感じてしまったというか。

堀さんの子どものころの体験とリンクしているような感じですね。

堀:まさに廃材で遊んでいたころの延長みたいな感じです。陶芸で使う材料の「土」が持つ可塑性とその無限の可能性にワクワクしました。美術展が陶芸をやろうと思った大きなきっかけではありますが、父の実家の近くに越前陶芸村という村がありまして、よく立ち寄っていました。子どものころから、陶芸が身近にあった環境で育ったことも大きいですね。

生命の美しさ、儚さと刹那を閉じこめた思いを表現した作品づくり

作品にはどんな思いが込められていますか。

堀:「美しい」って何だろう?ということを突き詰めていったときに、生命のサイクル、「自然」につながっていくと思うんです。では、「自然の美しさ」とは何か?と考えたときに、ありとあらゆるものが一生懸命生きている。生命のサイクルのなかで、切なさや儚さ、刹那があって、そしてバトンをつないでいく。自然や生命の美しい一瞬を表現したいと。その時々に感じ、感動した感覚を土に映し留めて、焼き物を通じて表現しています。
作品名:Life

陶芸家として「突き抜けた」と感じた瞬間はありますか?

堀:2015年にパリで個展をやって、その後京都で2人展をやりました。パリで個展をやったときにいったん自分が表現したいものは出せたと思いました。 「Life」というタイトルの作品で、ステートメントにも書いてあるのですが、命が命を生み、永遠にそのサイクルが続いていくこと。生命は、限りあるからこそ美しい。そんな自分の思いと作品が一致したと感じました。実際に、パリの個展でもその後の京都でも、高い評価を頂きました。

堀さんの作品からは、ただ明るいとか暗いといった単純なものだけでなく、複雑で多面的な「自然」を感じました。こだわっている技法や素材はありますか?

堀:特にこだわっているのは、マンガンや銅やコバルト等の金属粉を、計量せずにその時に表現したい頭の中には既に見えている色合いに合わせてランダムに混ぜて、粘土に直接塗ったり、化粧土に混ぜたり、釉薬に混ぜたり、それらを更に重ねて層にしていくということですかね。マンガンや銅やコバルト等の金属粉をランダムに混ぜることで、「曖昧さ」が表現できるかなと。絵画でいうところの「印象派」の曖昧さといえば、わかりやすいでしょうか。 はっきりしたわかりやすいものだけではなく、「曖昧さ」や「うつろい」といったものを閉じこめたような表現ができる。陶芸の技法のなかでも、このやり方が一番自分には合っていて、表現しやすかったですね。

ひとりの陶芸家として、家庭人としての葛藤。力が抜けきった先に見えたもの

普段のお話しを聞かせていただきたいのですが、堀さんは、ふたりのお子さんのお母さんでもあります。子育てをしながら、どのようにして作品を作られてきたのですか。

堀 :上の子が3歳になるまでは、いったん作品作りはやめました。といっても完全に離れたわけではなくて、たまに土に触れてはいました。下の子が生れる前くらいから、徐々に再開していった感じです。 結婚したり子どもが生れたりすると、やめていく女性の陶芸家は結構いるんですが、私の場合はやめる選択肢はなかった。 ただ、子どもは一番の作品でもあるので、なるべくそばにいたいなぁと。子どもたちと蟻をじっと観察するとか、いっしょに体験していくことで、新たな発見がありました。

お子さんが生まれて、作品にも影響はありましたか?

堀:ありましたね。今はやっていないんですけど、自分の子どもたちの手形取りを陶芸でやったんですが、それがすごく好評で。やりたいって言ってくれる人が、たくさん来てくれました。あとは、子供向けの造形教室を開催しているのですが、そこで、うちの子達も含め多くの成長期のお子様達と交流させて頂いているので、成長期の無限の可能性に満ちた子供達のエネルギーを分けてもらいながら、共に成長させて頂いてきたなと思います。かけがえのない経験です。うちの子達が生まれてきてくれて、今の作品を生むことができています。この世はあらゆる相互作用で成り立っているんだなあとしみじみ思います。

妻として母としての自分と陶芸家としての自分と、どう向き合ってきたのでしょうか。

堀:妻であり、母であり、親として、常識人でいたい、または、いなければならないと思い生きていた自分。その一方で、私は芸術家でもあるので、表現者として常にスムーズに流れるように制作する為にも、開放されきった、究極の、ありのままの自由な感覚を常に忘れずにいたいという、2極を行き来する葛藤の時期も一時はありましたね。

その葛藤はどう乗り超えたんですか?

堀:目の前のことをただ必死にやっていたら、気が付いたらすぎていたという感じです。地に足がついている自分も、ぶっ飛んでいる自分も、多面体な自分を、全てがあると全部認めてしまったら、凄く楽になったんですよね。 今は色々な力が抜けきって、抜けた先にあるありのままの本来の大元のエネルギーを出せるいい状態にあると感じています。色んな方に何故そんなにエネルギーが高いのかと言われることが最近多いのですが(笑) 様々に手放して力が入っていないからかな?とお伝えすることにしています(笑) 若い作家さん等から常に相談されますが、お伝えすることは、外側を気にせず、自身のありのままを大切にして下さい。外側には実は何もなく0から全て生み出していく。創造主は自分だったと気付くと、ありのままを大切にし認め合う豊かな世界が目の前に広がっていきます。外側からもらおうとしてもいずれ枯渇します。内側からは無限のエネルギーが常に無尽蔵に泉のように湧いていて、けして枯渇することはありません。頑張っている人達を常に応援しています。

原点回帰を意識しつつ、海外も視野に。「常にリラックスして感謝と共に素直に表現し続けていける陶芸家でありたい」

来年、2024年には台湾での個展も控えていますね。台湾での個展について、聞かせていただけますか。

堀さん :数年前に台湾で、2人展をやりました。私の高校時代の恩師が銅版画家で、台湾でとても有名な方。その恩師に常設のギャラリーを紹介していただいたのが、台湾でのご縁の始まりです。その近くに工芸専門のギャラリーがあって、日本に持って帰るのが大変なんで、作品を置いてもらえませんかって聞いてみたら、OKが出まして、置いてもらえることになりました。 しばらくして、そのギャラリー(至美蒔光)が、台北の迪化街から、台北市中正区古嶺街へ移転しました。 移転した場所は、国立台湾大学(2007年に歴史的建造物文化財に認定)の教授寮が、長い年月と何億円をもかけて修復された場所で、驚く程素晴らしく美しいギャラリーです。そこでの2024年の個展の依頼が来ました。今からとても楽しみにしています。ぜひ、この機会に台湾にお出かけ下さい。 来年の2024年は、5月と、11月から12月にかけて、台湾で2回個展があります。11月から12月の個展は、台中の「印 藝文空間」で開催します。台北も台中も、ギャラリーの方々が皆優しく温かく素敵な方ばかりで、すごく楽しみです。
個展が開かれる【東美院・至美蒔光】(会期: 2024年5月7日~5月31日)

台北の「東美院・至美蒔光」、台中の「印 藝文空間」を写真で拝見しましたが、すごくステキなギャラリーで、楽しみな個展ですね。最後に今後の展望をお聞かせください。

堀 :どんな状態であっても、常に力が抜けて思い切り楽しみながら良質なものを生み出し続けられるシンプルな自分でありたいと思っています。これまで私に起こってきたことは、全部必要なことだったと。先にもお話ししましたが、今は大分力が抜けてきていて、すごくフラットな状態。本来のありのままの素の自分を大切にしながら、海外にもどんどん進出していきたいです。 これまでいろんな国で陶芸を見てきましたけど、世界でも日本人の技術はやっぱりすごかったんだなぁと改めて感じました。「わび」「さび」だけではなくて、その魂をも表現できるベースのようなものが日本人にはある。その感性を大切にしていきたいです。 作品を通じて、さまざまな方々と真の心の交流を続けていきたいですね。

プロフィール

陶芸家

堀 順子Hori Junko

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自然からの感覚に従いその時に感じたものを土にうつしています。最近は森に工房があるので、森からのインスピレーション、また昔から水に惹かれるので、川や海の流れや音から感じるものを表現する事が多いです。

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