2024.06.03更新
「うつわから食生活を豊かにしていきたい」
陶芸家
亜登武窯 武田謙二
光沢があり、自然な風合いを持つ備前焼のうつわ。耐火度の高い土で作られ、電子レンジやオーブンで調理ができる。そんなうつわを生み出すのは、陶芸家の武田謙二さん。作品を焼く登り窯はご自身で作られたそう。ブランドである「ONI BIZEN」は日本だけでなく、海外からも注目を集めている。備前焼の伝統にとらわれず自由な発想で制作を続ける武田さんに、うつわ作りの喜びや苦労、今後の展望などをうかがった。
陶芸との出会いを教えてください。
武田謙二さん(以下、武田):父親が趣味で陶器を集めていたんです。家でいろんな陶器に自然に触れていたこともあって、高校生の頃、陶芸っていいなと思うようになりました。キャンドルサービスの会社に就職してから交友関係が広がって。その中の一人に備前焼の作家さんがいたんです。その方から制作の話を聞くうちに、こういう仕事もいいなと。自分一人で、すべてを自由にできるところに惹かれて。弟子入りする年齢ではなかったので、会社を辞めて岡山県の陶芸の学校に入りました。脱サラですね(笑)。そこで1年間、備前焼の勉強をしました。
登り窯をご自身で作られたそうですね。
武田:その陶芸の学校に窯の設計図があったんです。もともと器用なほうなので、その設計図を見たときに、これなら自分でも作れそうだなと思って。それで一から窯の設計図をかきました。それから土を1メートルほど手掘りで掘って耐火煉瓦を並べたり、生コンを流したりしてベースをきっちり作ったんです。1年で窯の大方は完成して。でも、高い所が苦手で…(笑)。煙突と屋根はプロの人に依頼して作ってもらいました。 登り窯は人工的に傾斜をつけて、煙突を高く作ります。そうすることで炎の流れがよくなるんです。昔は穴窯で山の自然な傾斜を利用して焚いていましたが、それだと何十メートルと場所が必要になるので効率が悪くてね。 登り窯は奥行きがあまりないので、作品を詰めやすいという良さもあります。
登り窯で実際に作品を作られてきて、苦労したことはありますか?
武田:窯を開けてみるまで作品の状態がわからないことですね。窯の手前や中間、奥や左右など、焼く場所で炎や灰のあたり方が変わるので、作品の色に違いが出るんです。
あと高温で焼くので耐火度の高い粘土じゃないと、作品が割れたり変形したりしてしまって。粘土の配合をいろいろと変えて、仕上がりを試してきました。最近は同じ粘土を使っていて、いい形で、安定して焼き上がるようになってきています。
日常で使えてこそ、うつわは生きる
備前焼って釉薬を使わないのですか?
武田:一般的に備前焼では、“わびさび”を大事にしていて、ツヤを出すことはダメなんです。備前焼の壺や花入れ、茶器などの実物や写真を見たことがあるかもしれませんが、大体は渋い感じですよね。でもそれだと、なかなか普段使いができなくて。亜登武窯では釉薬を使う代わりに作品を高温で焼くことで、表面をガラス状にして光沢を出しています。そうすると、表面がつるっとした感じに仕上がって、口当たりもよくなるんです。うつわをテーブルに置いても、テーブルに傷がつかないですしね。
作品はどのように作られていますか? 他の備前焼の作家さんとの違いなどがあれば教えてください。
武田:まず、皿のベースを粘土で作るんです。平らなものを100枚から200枚くらい。それから1枚ずつそれらを形にしていきます。工程はわりと短いですね。他の備前焼の作家さんは、粘土を作って、ろくろの上で1つずつ形にして、生乾きしたらひっくり返して高台を削る、というふうに制作することが多いです。亜登武窯の作品は高台を削る工程がない分、効率的なんです。なおかつ、大きなうつわが作れます。それに楕円形で深みがある皿も、簡単に作ることができるんです。ろくろですと、楕円形の皿はできないですね。楕円形で深みがある皿は、カレーとかパスタにも合って使いやすいですよ。
道具へのこだわりは何かありますか?
武田:制作をしていて、こういう道具があったらいいなと思うものは、自分で手作りしています。買うと、高いですし(笑)。たとえば、車のワイパーのカネの部分を道具にしたり。ワイパーを交換するときにそれを取っておいて、手を加えて制作の道具にしています。錆びないのがよくて。主に作品を削るときに使っていますが、作陶のいろんな場面で役に立っています。あまり切れなくなったノコギリの刃を道具にしたこともあります。
道具に使えないかなって、あれこれ考えるのが好きなんです。道具のことを考えているときに、作品のいいアイデアが浮かぶこともありますね。
岡山に残る、鬼伝説から生まれたブランド
「ONI BIZEN」のサイトを最初に開いたとき、〝鬼”のロゴが目に飛び込んできました(笑)。ブランドはどのような経緯で生まれたのでしょうか?
武田:岡山には、鬼にまつわる伝説がたくさんあるんです。そこから〝鬼が使ったであろうような食器”というイメージが湧きました。
作品を焼くときはマツの木を燃料にしているんですね。窯の中が高温になると、マツの煙と灰で作品がいろんな色や状態に変化するんです。溶岩が固まったような荒々しさのある焼け具合になったり、備前焼特有の赤っぽい色になったり。そのようなところから赤鬼を連想したこともブランドの創設につながっています。
制作をしていてうれしかったことは?
武田:亜登武窯の商品を買ってくださったお客さんから「使ってよかった」と言っていただけるときがやっぱり一番うれしいですね。
亜登武窯の商品は耐火度の高い土を高温で10日間ほど焼いて作っているので、電子レンジやオーブンでも調理ができるんです。この間、おひつを購入いただいたお客さんから「いろんな野菜を入れて、電子レンジで温めて食べたら美味しかった」という声を聞きました。
野菜の水分だけで調理ができて、野菜の甘みがしっかり出るのでおすすめです。
お客さんからいい反応がもらえるとうれしいですよね。
武田:お客さんがほしいと言われる物は、だいたい作るようにしているんです。
先日、渋谷のイベント制作会社から、大壺の制作の依頼があって。その会社の画廊に置く、高さ80センチ程の大壺を4つ作れないかという依頼でした。最初に聞いたとき、そのサイズはちょっと無理かなって思ったんです(笑)。でも、いろいろ試しているうちにできる目処がついたので、依頼をお受けしました。実際に制作してみると、かなりハードで。全部手びねりで1日7センチくらいずつ積み上げて作っていったんです。効率を考えて、予備の壺と合わせて5つ同時に。でき上がったときには肩がパンパンに張っていました(笑)。きつい作業でしたが、そういうのがまたやりがいがあるんですよね。
過去には、お客さんから「左利き用の急須を作ってほしい」と言われて、作ったこともあります。
うつわを選んで、使うということが習慣になれば
制作の中で大変なことはありますか?
武田:一番大変なのは窯焚きですね。毎回死ぬ思いで焚いています(笑)。去年の7月に焚いたときは猛暑でバテて、その後3日間動けなかったんです。栄養ドリンクを飲んで強制的に身体を動かして、どうにか回復しましたが。
炎を見ると、人間って興奮して、普通の力じゃない力が出るんですよ。
今後の展望をお聞かせください。
武田:「備前焼はこうだ。食器をこうだ」といったイメージにとらわれずに頭をやわらかくして、いろんな作品を自由に作っていきたいですね。苦労して作るよりも、楽しんで作ったほうがいいものができるんです。
それと普通の作家さんが作らないようなものを作ろうと思っています。見る人は見てくれていますから。
亜登武窯の商品は料理ができる備前焼なので、それをもっとアピールしたいですね。蓋つきのものがあって、それなら電子レンジで簡単に美味しい蒸し料理ができるんです。
今、海外で日本食ブームがあって、日本食に合う日本のうつわを求めて、たまに海外から注文があるんです。最近ではスペインとドバイ、ベトナムの方から注文がありました。
ブランドのパンフレットを英語と中国語でも作っていて、今後は海外の方にも備前焼の良さをもっと発信していこうと思っています。
読者にメッセージがあればお願いします。
武田:うつわを箱に入れてしまっておくんじゃなくて、日々の暮らしの中でどんどん使ってほしいです。
立派な家を建てても家で料理をしない人がいたり、買ってきた惣菜をそのまま食卓に並べる人がいたり。
時間がない場合もあるでしょうけれど、「うつわを選んで、使う」ということを習慣にしてもらえたらうれしいです。同じものを食べるのでも、いいうつわで食べると味まで変わりますから。おいしく食べれば、健康にもつながりますしね。
「いいうつわを普段使いしてもらう。うつわから食生活を豊かにしていく」。そんな思いを、自分の作品を通して広めていきたいです。
作品紹介
プロフィール
陶芸家
つくりて詳細へ
亜登武窯 武田謙二ATOBUGAMA Takeda Kenji
岡山と東京で、大手キャンドルメーカーのデザイナーとして、企画と製造の現場に携わってまいりました。また、繊維会社で営業・販売、建設現場で溶接や大工の経験を積んでまいりましたが、それらがすべて、今の工房での創作活動に生きています。 備前焼はとても奥が深く、窯の中の炎の状態によっては想定外の仕上がりになる面白味があります。その素晴らしさをもっと多くの方に知っていただき、生活の中に取り入れていただきたいと思っております。
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